水戸地方裁判所 昭和46年(ワ)173号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕次に、原告勝雄は、従業員であるその余の原告等が本件事故によつて蒙つた傷害のため既に請負つた左官工事の追行が不能となつて右契約を解除され金二〇万円の損害を蒙つた旨主張する。ところで、原告勝雄の主張する右の如き損害は、講学上いわゆる間接被害、または企業損害と称されるものであるが、かかる損害は本件の如き従業員の交通事故と相当因果関係に立つものとは、到底認めることができないのである。すなわち、元来企業のため人を使用する者と従業員との関係は、使用者に関する限り、従業員から提供された労務を受領し、従業員に対しこれに相応する賃金、報酬等を支払うことに尽きるから、従業員が交通事故によつて労務の提供ができなくなつたとしても、これによつて使用者の蒙る損害は右の賃金、報酬等に限らるべきものであり(原告勝雄が本件事故によつて傷害を蒙つた従業員に対し欠勤中の賃金の支払いをなさなかつた事実は、前示のとおりであるから、同原告はこの点についての損害もない。)、従つて、使用者が右労務を企業活動に利用して利益を追及できなかつたとしても、かくの如きは間接的な事柄に属することは明らかであるから、その従業員が企業主体と同視されるような特別の関係ある場合を除き、これをもつて使用者が右事故のために蒙つた通常の損害と目することはできないのである。それならば、原告英次、星井、大石の本件受傷によつて原告勝雄に営業上の損害を生じたものということはできないから、この点に関する同原告の主張は、損害の内容について判断するまでもなく失当というほかはない。
(長久保武)